第41回伝統文化ポーラ賞受賞者記念展「Birth それぞれの始まり」は、Birthというテーマに基づき、本年度の受賞者と伝統文化の出会いや継承の瞬間の背景にある、様々なストーリーをご紹介します。本記念展にさきがけて、このページでは一部見どころをお伝えします。
伝統文化ポーラ賞優秀賞 武腰 潤
色絵磁器の伝承・制作
色絵磁器作家の武腰潤氏は、自身の作家人生の出発点となる古九谷 (一般的に江戸時代前期に制作された九谷焼)の大皿に博物館で偶然に出会います。このときの出会いが家業を継ぎ、今に繋がる独自の制作技術を磨くきっかけとなりました。自身の精神世界との葛藤を繰り返し、作家とは何かという問いと向き合いながら制作された作品から、武腰氏が追及する色絵磁器のワザや美学をご堪能ください。
伝統文化ポーラ賞優秀賞 杵屋 勝彦
長唄の伝承・振興
長唄の唄方として活躍する杵屋勝彦氏は、誰に言われるでもなくただただ好きで、憧れの邦楽の世界に進みました。民謡や端唄、ジャンルを問わず、先人たちが日本の空のもとで歌い継いできた音楽に惹かれ、いつしか三味線を手に取り、自らの歌声で感動を与える唄方への道を切り開きました。杵屋氏の熱心な活動はとりわけ「復曲」 (今では演奏される機会が少ない貴重な曲を新たな作品として復活させる試み)に表れています。長唄を未来に唄い継ぐ、杵屋氏の取り組みをご紹介します。
伝統文化ポーラ賞奨励賞 四代 田辺 竹雲斎
竹工芸の伝承・制作
四代田辺竹雲斎氏は代々続く竹工芸作家の家に生まれました。初代から受け継がれてきた伝統やワザを次世代に繋ぐことへの意義や使命感は、幼い頃祖父が瞬く間に竹籠を編んで見せてくれたことに感動を覚えたことから芽生えたと言います。先代からの竹工芸を守り伝え、竹に新たな命を吹き込むワザを、制作に打ち込む様子や作品から感じ取っていただければと思います。
伝統文化ポーラ賞奨励賞 新内 多賀太夫
新内節の伝承・振興
新内多賀太夫氏が新内節の伝承・振興に努めるきっかけとなったのは、旅行先で聞いた三味線音楽でした。偶然にも魅了されたその録音の演奏は、父・仲三郎氏 (人間国宝)によるものでした。自然と新内節の道に惹かれた多賀太夫氏は、他ジャンルの演奏家との共演や新曲の作曲などを精力的に行う他、次世代の後継者の誕生につながる多様な取り組みも行っています。新内氏の幅広い活動の魅力をご紹介します。
伝統文化ポーラ賞地域賞 浦川 太八
アイヌ木工芸の伝承・制作
アイヌ民具の制作に精通する浦川氏は、アイヌ文化の伝承者である母親のもとで育ちました。30代の頃から木彫制作に携わるようになり、昔からの知識や技術を次世代に継承するため、今では後継者育成に尽力しています。人から人へ受け継がれる伝統文化のように、自身の作品を通してその根底に流れるアイヌの伝統をも未来つなげる浦川氏の取り組みに、ご注目ください。
伝統文化ポーラ賞地域賞 秋保の田植踊保存会
田植踊の保存・伝承
秋保の田植踊は、宮城県仙台市太白 (たいはく)区秋保の馬場・長袋・湯元地区に伝わる田植踊の総称です。寒さの厳しいこの地区で、幼い子どもたちの踊りは命の輝きそのものであり、春に生まれてくる新芽を祝うことや、豊穣の祈りが表現されています。はなやかな衣裳や華麗な踊りを通して、春を迎える喜びに溢れるこの芸能が生まれ、受け継がれた思いを想像していただけることでしょう。
伝統文化ポーラ賞地域賞 瀬戸本業窯
瀬戸焼の制作・伝承
瀬戸本業窯は瀬戸・洞町 (ほらまち)において、約250年にわたり本業焼 (江戸時代後期に九州より伝来した新しい染付磁器と区別した従来の陶器の仕事)の伝統を受け継いでいます。その特徴は「分業」にあり、作品には一工程一工程職人たちの魂が込められています。家族であり従業員でもある職人同士が助け合うことで生まれるワザの結晶を、各工程の解説や作品を通して感じられるでしょう。
伝統文化ポーラ賞地域賞 犬飼農村舞台保存会
襖からくりと地芝居の保存・伝承
徳島県徳島市八多町 (はたちょう)の神社境内にある犬飼農村舞台は、人形浄瑠璃や地芝居の公演のために造られ、守られてきた野外舞台です。舞台そのものの保存・伝承だけでなく、この土地で親しまれてきた芸能を、後世に伝えるための役割も果たしています。秋の例祭で披露される「襖からくり」 (132の襖を巧みに操り、絵柄を次々と変化させる芸能)の様子や保存継承活動を通して、この地域に生まれた人々が数百年にわたって繋いできた歴史や文化の厚みを感じていただければと思います。